ありがとう平成!記念免状授与式(令和元年6月1日:将棋会館)

将棋会館

日本将棋連盟の本部のある建物。
棋士及び女流棋士の公式戦の多くと
タイトル戦の一部は将棋会館の対局室で指される。

東京都渋谷区千駄ヶ谷二丁目 竣工:1976年4月

5階対局室・中継室・ニコニコ生放送用スタジオ・宿泊室等
4階対局室(今回の会場)
3階事務室
2階道場・教室
1階販売部
B1階囲碁・将棋チャンネル用スタジオ・会議室

掛け軸を背にする方が上座とのこと

対局室

指導対局は、4階の『高雄の間』『棋峰の間』『雲鶴の間』を使って行われた。普段は関係者以外立ち入り禁止。

左が免状を授与された人。右はプロ。


指導対局とは…簡単に言えば、プロがアマチュアと対局し、
実戦を通して将棋を教えること。プロは勝ちにこだわらず、相手を正しい道へ導くのが
目的…だと思う。

指導対局

プロの先生は10名くらいいたが、指導対局の相手は抽選により松尾 歩八段に決まった。2面指しのうえ、飛車・香車落ちだったが完敗!
さすがプロ!当たり前だけど強い…
終盤に打った渾身の一手を「この手は読んでいませんでした。鋭い一手でした。」と褒められたのが嬉しかった!

松尾 歩(1980年3月29日生) 棋士データベース

現在も最有力とされている松尾流を実戦で編み出すなど、棋界に与えた影響は大きい。
ある年のNHK杯、茶髪にリーゼントと完全に「ナ〇ワ金融道」とかに出てきそうなインテリヤクザ姿だったため、お茶の間の善良な市民に、多大なる衝撃(と笑い)を与えた。

免 状 授 与 式

指導対局後、免状授与式が4階特別対局室で行われた。授与する方は佐藤康光九段(会長)。その後ろにいるのは、お祝いの言葉をくださった広瀬章人竜王。竜王の左にいる女性は、司会役の竹部さゆり女流四段、右手前にいる女性は加藤桃子女流三段(授与の補助)。座っているのはほかの参加者たち。他に進行役として千葉涼子女流四段がいた。

佐藤康光会長(左)と広瀬章人竜王(右)に挟まれて記念撮影。
これは一生もんだね!!

伝統と権威の書・免状(参段) ~あなたの棋力を永遠に~

江戸時代、免状の発行権は時の将棋所(名人)にありました。昭和に入り実力名人戦の実施とともに免状発行権が日本将棋連盟に移管しました。日本将棋連盟では、入段しました皆様に棋力を公認のものとするためにアマチュア正式免状を発行いたしております。(連盟の台帳に名前が記載・保存される)
ちなみに今回もらった免状の日付は、「平成31年4月30日」(平成最後の日!)

【参段】
日頃から将棋に真心をこめているうえに研究を怠らないで技術の向上が明らかになったことを認めここに三段を許可する
つとにしょうぎに  たんねんにして  けんさんおこたらず
じょうたつあきらか  なるをみとめ  ここにさんだんを  いんきょす

蒔絵駒箱(名人 佐藤天彦)

 免状と一緒に高級そうな駒箱も頂きました!
 サイズ:縦120㎜×横120㎜×高さ60㎜
 材 質:MDF・カシュー塗
  ※一つ一つ職人による手刷りの蒔絵加工です。
   色ムラやかすれも作品としてお楽しみください。

参 加 棋 士

佐藤 康光(1969.10.1生) 「羽生世代」の一人に数えられる。1993年、当時の五冠王の羽生善治から竜王を奪取し、初のタイトルを獲得。しかし、翌年は逆に羽生に竜王を奪われ六冠王を許してしまう。 棋士データベース

広瀬 章人(1987.1.18生) 2010年、23歳の若さで初タイトル(王位)を獲得。現役大学生がタイトルを獲得するのは史上初だった。2018年の竜王戦で羽生善治竜王をフルセットの末破り、久しぶりのタイトル獲得を果たした。 棋士データベース

参 加 棋 士 女 流 棋 士

千葉 涼子(1980.4.21生) 14歳で女流2級となり、プロ棋士となった実力者。石橋幸緒、矢内理絵子と共に、「花の80年生まれ・若手3羽ガラス」と呼ばれた。 棋士データベース

竹部 さゆり(1978.6.4生) 毒舌なおもしろエピソードが多い。ツイッター上で女流棋士会長の『眠いです』のツイートに対し『永眠して下さ い』というリプライを送る。異性に求めるのは『ATM機能』、炎上の事を『ネットキャンプファイヤー』など。 棋士データベース

加藤 桃子(1995.3.9生) 通算で『女王』を4期、『女流王座』のタイトルを4期獲得している。2011年、里見(当時の女流三冠)との対局で、譲り合いの末に女流王座(女流棋界最高峰)の加藤が下座に座った。愛称「カトモモちゃん」 棋士データベース

参加者たちのツイッター・ブログ

指導対局日誌

手合割はどうしましょうか?
 指導対局開始直前に、松尾先生からそう尋ねられた。通常、指導対局ではプロとの実力差を考えて、実力に見合うハンデを与える。つまりこの質問は、どれくらいのハンデをつけるか?ということだ。
実は僕、インターネットでしか指さないので駒落ちは指した事がなくて…よくわからないのですが、一応棋力は3段くらいです。
と正直に答えたところ、
それでは、飛車・香車落ちにしましょう。
と手合割が決定。さすがプロ!そこら辺は慣れてる。さらに松尾先生は駒落ちだけでなく僕の隣の人とも同時に指す、2面指し。まぁ、予想通りの展開だ。

 駒を盤上に並べようとしたとき、昔、師匠がどの駒から並べるか順番があると言っていた事を思い出す。あと、駒の持ち方も教えられたっけ。でも、そういう事にあまり興味がなかったので完全に忘れている…三段なのに…ちょっと素人っぽくて恥ずかしいけど、最初にネットでしか指さないと言ったから、まぁいいか。

 「よろしくお願いします。

 対局が始まった。序盤はとにかく松尾先生に駒を渡さないように注意して指した。駒さえ渡さなければ、向こうは飛車・香車が無い分、攻めることが難しいと思ったからだ。

 松尾先生は飛車・香車落ちにもかかわらず全然隙をみせてくれない。しかも嫌なところを的確に攻めてくる。じわりじわりと差が詰まっていくのがわかり焦る。

 局面が終盤に入った。攻める糸口が全然つかめない。まだ何とか食らいついてるけど、もう最初の貯金は使い果たした感じだ。このままでは逆転されるのは時間の問題、何とか崩す手はないだろうか…と必死に考えていたら、一つの手が見えた!これなら行けるかもしれない!

 その手は、一見単純な攻撃に見えるけれど、実は別の狙いがあるって感じの手だった。松尾先生も油断してただの単純な攻撃だと思うかもしれない。そうなればチャンスがあるかも。

 しかし、その手には問題があった。松尾先生に最大の攻撃力を持ってる駒
『飛車』を渡すことになるからだ。でも、このまま大人しく指していたら僕には勝ち目がない。なら、この勝負手に賭けよう!

 僕は6二桂成を指した。桂馬と金を交換できる一見すると得をする手に見えるけど、いかにも筋が悪い手だ。松尾先生もそう思ってくれることを願った。松尾先生が桂馬を金で取る。普通はすぐにその金を取り返すところだろう。でも、それではその後の攻めが続かない。僕は作戦通りに取り返すことができる金を無視して、
飛車を切って3二にある金を取った!飛車と金の交換。普通に考えれば大損だ。

 今までリズミカルに指していた松尾先生が、ここで初めて手を止めた。深い読みを入れてる。どうやら、少しは三段らしい手を指せたようだ。ここから飛車を犠牲にして手に入れた駒を使って、王手をかけながら松尾先生の王将を守っている駒を剥がしていく。もう松尾先生の王将の周りには守りの駒がない!やっと攻めることができそうな形になった!

 しかし、これ以上は王手が続かない。攻めが途切れる。僕は迷った。僕の陣形もいかにも危なそうな形で、いつ潰されてもおかしくないって感じだ…選択肢は次の2つ。
 1.持ち駒を使って守る。
 2.攻め続ける。
 1なら、粘って対局を長引かせることはできるが、攻めに使うための駒が足りず勝つことは不可能。
 2なら、もう一度攻めの機会が回ってきたら、もしかするとチャンスあり?でも、渡した飛車で一気に攻め込まれすぐに負ける可能性大。

これは記念の指導対局だし、プロと対局する機会はもう二度と無いだろう。なら、可能性が低くても勝つ可能性がある方を選ぼう!

 僕は守ることを放棄し、さっき取らなかった金をここで取った。これで次に7二銀と指せれば、相手玉がどこに逃げても8三金まで。僕の勝ちだ。でも、問題は7二銀と指す余裕を松尾先生が与えてくれるかだが…

 予想していた通り、ここから松尾先生の連続攻撃が始まった。5九飛。王手、角取りだ。痛い、激痛だ。でも覚悟していたことだ。本当は持ち駒を使って守りたいところだけど、ここで持ち駒を使うわけにはいかない。必死に王様を逃がす僕。
せっかく攻めるための持ち駒を確保してあるんだ。もう一度攻める機会が来ると信じて、何とか凌ぐんだ!

 数手後、松尾先生が7五馬と指した。大丈夫。この手は読んでた。7四金と指せば、金銀を渡すことになるけど馬を仕留めてなんとかなるはず…  

 しかし、僕はここで大きな勘違いをしていたことに気づいた。松尾先生が指した7五馬は王手になってる!いつの間にか僕の王様は王手になるよう誘い出されていた。王手だから7四金は指せない。そして…僕の王様はもう詰んでしまっている…これ以上逃げても意味がない…

 僕は負けを悟り、大きくゆっくりと息を吐いた。ついに終わってしまった。駒台には、活躍することができなかった持ち駒たちが乗っている。結局、攻めるチャンスは来なかったな。

 すぐに投了しても良かったけれど、将棋には『形作り』と言って、負けが分かっていても敢えて数手指してから投了する習慣がある。良い対局であったという思いを投了局面にこめるのだ。

 僕は8六香と打って王手を防いでみる。当然、松尾先生は8五桂とさらに王手をかけてきた。これ以上逃げるのは流石に見苦しい感じがする。美しくない。対局前に心配していたうっかりミスはしなかったし、鋭い手も指すことができた。恥ずかしい将棋ではなかったはず!満足だ。

ここで僕は投了を告げた。 「ありません。ありがとうございました!